1700年代、享保20年ころ、幕府の役人で本草学者の丹羽正白は、日本全部の動物、植物、鉱物などの調査を各藩に行わせ、「産物帳」という書物にまとめた。残念ながら、幕府にあった原本は失われたが、各藩の控えが残っていて、当時の自然環境を知る手がかりとなっている。水戸藩においては、「御領(水戸領)内産物留」(1736年 国立国会図書館・白井文庫蔵)と題される写本が残っている。
この調査は、日本全国を対象として実施されたはじめての自然調査というべきものであった。水戸藩内においても、藩内の知識人を刺激し、木内玄節(1768~1833)の「常陸物産誌」24巻や佐藤中陵(1762~1848)の「山海庶品」1000巻の作成に影響を与えた。
ここでは「御領内(水戸領)産物留」の鳥類の部に記された品目名と書入れを紹介する。
一鳥類
鴈
マタラ 真カン ヒシクヒ 犬カン 鴨
マカモ 羽白 ヲシカモ カル 小カモ ス丶カモ
ハクカン サカツラ タカブ クロカモ カシラタカ ヲナカ
靏
ナヘツル 真ツル 白ツル ナヘツル平生ハ渡り不申候 十月比ヨリ来三月四月比迄
居り申候江辺ニテハ朝鮮ツルト申候小フリニて黒ツルニ御座候
真ツルコレハ平生居申候テ大フリナル鳥ニテ目ノ辺アカク御座候 白ツルコレモ折々ワタ
リ申候
コウノ鳥 白鳥 鳩 土ハト八幡ハト ス丶メ
四十カラ 五十カラ マヒハ 庭鳥
鴬 ツバメ クイナ ケリ
ウツラ ヒハリ 木ツツキ又テラツキ フクロウ
トビ カラス ヒヨ鳥 ヨシキリ
サンクワウ 青ジ ミソサンサイ ムク鳥又サウメキ
川鼡カイツフリトモキンキチトモ鳩ト云ハ シギ バン
比ノ鳥ノヨシ
ミ丶ツク トキ モズ セキレイ
テウマ メシロ ウカラス 田ヒバリ
キクイタ丶キ
カシラタカ サキ青サキ タイサキ
五位サキ 白サキ
シヤウビン又川セミ
ヲ長鳥 カケス カハラヒハ
コカラ チトリ 水ク丶リ キシ
ホ丶ジロ カツコウ鳥 ウソ ハイタカ
山シキ ルリ コマトリ レンジヤク
シメ ヒタキ シナイ ミナクチ
ツクミ キセキレイ アヒル ヌカ
ハヤフサ ヨタカ ムネクロ ワシ
カハホリ 川ス丶メ エホ 山トリ
松ムシ マシコ イスカ イカル
黒ツグ ノジコ ホトトキス スボロ
アトリ ミヤマス丶メ 山カラ ボト
虫バミ 鍋カフリ 鷹
一海鳥
マトリ クロ鳥 コマ鳥 カコ鳥
ミサゴ コチタ チドリ
以上は「御領内(水戸領)産物留」の鳥類の部の本文であるが、同時に作成されたであろう絵図は発見されていないので、品目名の鳥が、現代の標準和名でどの種であるのか、方言の問題もあり、推察は困難な種もある。現在の鳥の生息状況などから、あえて推定すると以下のようになる。
一鳥類
鴈
( ? ) マガン ヒシクイ シジュウカラガン 鴨 マガモ ( ? ) ヨシガモ カルガモ コガモ ( ? )
ハクガン サカツラガン コガモ ( ? ) ( ? ) オナガガモ
靏マナヅル タンチョウ ソデグロヅル
マナヅルは、普通は渡ってこない。10月頃から来て3月4月頃までいる。江戸では朝鮮ツルと言う。小さくてクロツルに見える。
タンチョウは、普通にいて大きい鳥で目の辺りが赤く見える。ソデグロヅルもときどき渡ってくる。
コウノトリ ハクチョウ ハト ドバト ジュズカケバトあるいはシラコバト スズメ
シジュウカラ ゴジュウカラ マヒワ ニワトリ
ウグイス ツバメ クイナ類 ケリ
ウズラ ヒバリ キツツキ類 フクロウ
トビ カラス類 ヒヨドリ ヨシキリ類
サンコウチョウ アオジ ミソサザイ ムクドリ
カイツブリ シギ科の鳥の総称 バン
ミミズク類 トキ モズ セキレイ類
ツグミ メジロ ヒメウ タヒバリ
キクイタダキ
カシラダカ サギ類
カワセミ オナガ カケス カワラヒワ
コガラ チドリ類 ミソサザイ キジ
ホオジロ カツコウ ウソ ハイタカ
ヤマシギ オオルリとコルリ コマドリ ヒレンジャクとキレンジャク
シメ ヒタキ類 アカハラ ミゾゴイ
ツグミ キセキレイ アヒル ベニヒワ
ハヤブサ ヨタカ ( ? ) ワシ類
(
? ) ( ? ) サンカノゴイ ヤマドリ
ヤマヒバリあるいはキクイタダキ マシコ類 イスカ イカル
(
? ) ノジコ ホトトギス ( ? )
アトリ ( ? ) ヤマガラ ( ? )
(
? ) ( ? ) タカ類
一海鳥
ウ類 クロガモビとロートセキンクロ ( ? ) ( ? )
ミサゴ ( ? ) チドリ類